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偶爾會想

 その割引券を眺めていた

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 その割引券を眺めていた

ここ真秀良国の南に位置する 胡枇の町は新しい美容中心
 昔 乾燥した砂ばかりの荒地で、
 たった一つの泉と 胡枇の木が一本生えているだけの、 なあんにも無い土地だったらしい。
 そこに 何もかもを新しくでっち上げた人工的な都市だ。
 現在は首都になっている。
 乾燥した砂地を掘ってみたら、
 安定した硬い地盤が在ったのを これ幸いと利用したという。
 だから 名前が胡枇になった。
 せっかくだから もっとカッコいい名前にすればいいものを、
 都市建設のプロジェクトチームは ネーミングには意欲を燃やさなかったらしい。
 残念。
 よって、 古くから存在する他の町とは違い電話、 いろいろと最新式に出来ている。
 エネルギー・水・通信などの生活基盤施設は、
 全部 目立たない形で ほとんどが地下に埋っている。
 主要な地区には 動く歩道が完備されており、 低速と高速で乗り換えも出来る。
 高速を乗り継いで、 その上を速足で歩けば、
 公共交通機関を利用しなくても たいていの場所に 徒歩で充分行けるのだ。
 中心部に住んでいる人たちは、 交通機関を利用しなくても 不便はないらしい。

 私たちは郊外に住んでいるし、 通っている大学も郊外だから 当然 地下鉄を利用する。
 それとアレだ。
 体重移動によって 無動力で走る 一人用簡易走行車。
 ええい、 言いたくないが、 通称カラクリン。
 なんて酷いネーミングだ。
 ねえ、 お願いだから もっと真面目に考えようよ。

 愚痴はともかく、
 私たちが目指す画材店 『無言堂』は 商業地域のはずれに在る。
 中心地区には 全国展開している大手の画材屋もあるが、
 無言堂は品揃えが面白く、 プロのファンも多い活髮
 しかも 店主が若い美形男子である。 良い! 
 店頭で見かけることは少ないが、 店の名前どおりに とっても無口な店主なのだ。
 ミステリアスで良い というファンも多いが、 私としてはそこが不満だった。
 八百屋や魚屋じゃないから、 威勢の良さを求めているわけではない。
 しかし、 店を開いているのだから、 もう少し愛想が良くてもバチは当らないと思う。

 初めの頃、 声を聞きたくて 見かけたときには 何かと話しかけてみたが、
 店主ではなく、 やたらにおしゃべりな店員が代わりに答えるので、
 長い間 どんな声なのか 知る機会が無かった。
 あの手この手で やっとしゃべらせることに成功したときは、 ちょっとがっかりだった。
 聞き取りにくい声で ぼそぼそとしゃべるのだ。

 私は美大生のクセに、 生粋の声フェチらしいのだ。
 蛙を踏み潰したような顔でも、 河馬があくびしたような顔でも、
 声が良ければOK だったりする。
 このままだと 将来生まれてくるであろう我が子が気の毒だ。
 本当に それでいいのか と思う今日この頃である。

 ただし、 見た目の良さにぞっこんの真性ファンもいるらしく、
 主婦の文化講座受講生らしき おば様方やら お姉さま方が、
 今日も大勢来店して、 ウキウキと楽しそうに画材をあさっている。
 近日中に開催される 展覧会の割引券が 取りやすい場所においてある、
 というサービスもばっちりあって、 私が あえて文句を言う筋合いでもない。

 その割引券を眺めていた 数人連れのおば様客が、 店員を呼び止めた。
 おしゃべりな店員が 愛想良くやってくる。
 店長には明らかに劣るとは言うものの、 この店員だって 不細工な方ではない。
 ただ、 声は軽薄そのものだ。
 やっぱり残念。

「明後日から始まる『コメダワラ・リュウの世界』割引券はもう無いのかしら」
 コメダワラ・リュウは国内ではぱっとせず、海外から人気に火が付いた画家である。
 凹凸のある金属板に、特殊な油性絵具を使っているところは新しそうに見えるものの、
 絵そのものは、真秀良に昔からある技法をヘタクソに真似した稚拙ともいえる絵だ。
 が、外国の人には新鮮に感じられたのだろう。
 爆発的な人気が出て、人気アーティストの仲間入りを果たした。
 今回、凱旋帰国ともいえる大々的な展覧会が開かれることになり、
 国内でも話題になっていた。
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